沢登りを行うための基本

1.地形図のカスタマイズ

(1)事前に地形図を入手する。入手方法は以下等がある。

①カシミール3Dはエリア範囲や縮尺を自由に設定して印刷でき便利。

②大型書店や登山専門店等で国土地理院発行地形図を購入。

     難点として予定ルートを網羅させるためには複数購入が必要なことと、

     自身で磁北線を引かなければならないことがあげられる。

(2)地形図上で沢と思われる等高線の凹みを支流も含めて最後まで青色等の

細ペンですべて細かく引く。

この作業を大雑把にやらないこと。ちょっとの凹みでも見逃さずに

引くことが沢の中での現在位置確認に影響する。

(3)尾根上のピーク、コルをやはり細かに入れる。

(4)範囲内における危険箇所を黄色マーカー等で入れる。

危険箇所とは、崖、ガレ場、ザレ場、等高線が非常に密な箇所、護岸堤、

     道迷いしそうな箇所などがあげられる。

(5)人工物を緑色マーカー等で入れる。

人工物とは、小屋、道路、登山道、送電線など。すなわち安全圏だ。

(6)現在位置が確認できそうなポイントに赤ペンで標高表示を記入する。

     上記ポイントとは、沢の二俣(三俣)、林道横断点、沢の等高線が

水平かつ密になっている箇所(滝や棚が予想される)、ピーク、コル、

尾根の分派点など。

 

インクジェットのプリントアウトは遡行中にじむことがあるので、

レーザープリンターもしくはコンビニ等のカラーコピーがよい。

必ず予備も用意しておこう。

また遡行範囲だけの地形図だけでなく、遡行範囲を含めた周辺拡大地図を

用意すると山域全体の概念が掴めてよい。

(国土地理院地形図なら20万分の1など)

これら用意した地形図はファスナー付きのジプロックに入れ、遡行中すぐ

見られるように伸縮紐のついたストラップをつけてザックに装着しておく。

   よくポケットに仕舞う人がいるが、落としてしまうことが非常に多い。

 

2.遡行中の地形図の確認

 

(1)現在位置把握・・・二俣、三俣など沢の合流点における沢の方角を

コンパスでできるだけ合流点中央に立って確認する。

       (西北西、南東とか、360度方式で○○度とか)

水量比は同じ地盤や植生と仮定すれば、それぞれの沢の集水面積

にほぼ比例するので一つの根拠となる。

ただし上流に湧水箇所が上流にあるなど例外も多い。

現在遡行している沢の方角、または方角を変えているポイントを

確認する。

中間尾根や周辺尾根の方角をコンパスで確認する。

等高線の変化を見れば大滝、ゴルジュの予測も可能である。

(2)エスケープルートの掌握

メンバーの怪我、増水、滝やゴルジュ突破が不可能など様々な

リスクが発生した場合にいかに短く安全圏(登山道や林道、小屋等)

に逃れられるかは遡行中常に考えながら行動しなければならない。

事前に考慮した危険箇所とセットで計画段階で周知しておこう。

(3)遡行図の作成

人の作った遡行図だけ見ながら遡行している人をよく見かける。

これではいつまで経っても一人前の沢登りはできない。

上述した事前準備を過去の記録も参考にしながら丹念に行い、

実際に目の前に現れる現実をどう対処していくかの積み重ねが

沢登りの経験を積むということだ。

そしてその対処とそのとき感じたインプレッションを書き留め、

帰宅後に清書しなければ、その山行は完結しない。

それを形に残したものが自分たちが作成した遡行図だ。

「悪かった」「怖かった」「気持ちよい」など印象を書き加え

ればもっと 充実する。

 

2.専門用語

(1)入渓・・・沢に入ること

  (2)遡行・・・上流に向かい沢を歩く、登ること(※逆は下降)

(3)右岸、左岸・・・「岸」とつけば上流から見ての右・左のこと

(4)本流、支流(支沢、枝沢)・・・二俣等で原則として沢床が低い方

が本流だが、例外も多くある。

(5)滝、棚、落ち口(リップ)、釜、瀞(とろ)

(6)ゴルジュ・・・両岸が壁状で狭くなった地形

      増水時は遡行が難しくなり、高巻き等の逃げ場に疎いため

      一般的にはリクスポイントといえる

(7)ルンゼ(ガリー)、チムニー、クラック、リス

      岩溝。ルンゼは広いもので、チムニーは身体が入るサイズ、クラックは

    拳や指が入るサイズ、リスは単なる割れ目でハーケン打ちに適している

(8)CS(チョックストーン)

      谷の間に大きな岩が挟まっているもの。ゴルジュ内や上流部によく出て

      くる。CSの両側もしくは片側が滝になっていることが多い。

(9)ナメ、ナメ滝・・・一枚岩床。斜度があれば滝状になりナメ滝という。

10)沢床・・・文字通り沢の床

11)ゴーロ・・・岩がゴロゴロと河原いっぱいにあるところ

12)ガレ、ザレ、押出し

岩混じりの崩壊斜面をガレ。土砂の崩壊斜面をザレ。上流の崩壊により

      岩が押し出された箇所を押出し

13)草付き・・・岩斜面に草が生えている箇所。登るには難しい箇所も多い。

14)ブッシュ・・・背の低い灌木

15)堰堤・・・主に土砂崩れ防止に作られた堤防。古いものには石を積み

上げた石積み堰堤がある。大抵、脇に手摺りか巻き道がついているが

何もないものもある。

16)インゼル・・・沢の中にできた中ノ島のこと。二俣かと思っていたら

上流部で再び沢がくっついていた(分かれていた)らインゼル。

17)詰め・・・遡行すれば沢の最後の部分。一般的に急になることが多く、

ガレやザレであったりルンゼであったり草付き斜面、壁の場合が多い。

18)SB(スノーブリッジ)

谷に積もった雪渓の最後の姿で橋げた状態になる。氷のように圧縮され、

    薄くなったものはいつ崩壊するかわからない。

対処は、なるべく朝の早い時間帯(気温が低く安定している時間帯)に、

下を潜るか、SBのゲタの上を歩くか、高巻くか。

いずれにしても的確な判断と行動が求められる。

年により同じ沢でもまったく様相が異なるので、積雪季からその周辺

の気温、積雪量等の気象データを気象庁HPから過去含めて把握して

おく必要がある。

19Fall Number(下流からF1、F2・・・)

      小さな滝は数えないことが多い。記録者の主観性がある。

20)遡行グレード・・・1~6級(上、下を付ける場合もある 例:2級上)

      1級・・・初級  2~3級 中級  4級 上級

      5級・・・熟達  6級 篤志

      行程全体のグレードである。滝や高巻きの難易度、行程の長さ、

アプローチや下山路など総合的なグレード。

同じグレードでも内容が違う。

2級くらいからそれなりの技術が必要となる。

21)ピッチ(登攀、クライミング)グレード・・・Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ級

上、下を付ける場合もある。(RCCⅡグレード)

      一つの滝のクライミンググレードである。フリークライミングやボルダ

リングのグレードとは別物。

      初心者、初級者はⅢ級くらいからロープ確保をしてもらった方がよい。

 

3.専門技術

 

(1)ゴーロ帯の通過・・・浮石に注意。視線の高さを一定になるよう膝屈伸で

調整

(2)徒渉、泳ぎ、へつり・・・振り子徒渉、V字徒渉、スクラム徒渉。基本は

すり足。泳ぎの際はヘルメットはザック内に仕舞うこともある。

ザックベルトの付け外し、調整は深さにより調整する

(3)直登、高巻き・・・滝が遠望できたらまずは両岸の高巻きを探ろう。

      それから滝に近づき直登を探る。

      どちらも下から見るよりも現実は悪いことの方が多い。

(4)ラペリング(懸垂下降)・・・支点(主に木)はその生死、老若、強度、

位置を十分にチェックする。

      ゴルジュ内に下降するならば、その先は進むことができるのか

確認してからロープを引き抜く。

      進めなければ登り返さなければならない。

(5)登り返し・・・ロープスリング2本使用や、同1本+オートロック型

ビレイデバイス使用の方法をマスターしておく。

最近はマムート社から出ている「rescyou」というギアも使える。

(6)FIXロープによる登攀

適正なフリクションノットを使用すること。クレイムハイストや

マッシャー、プルージックの利点、弱点は知っておき使い分けること。

リード者は、もしフォロワーがテンションした場合に滝の流芯に

振られたり、ハングした岩の下部に落ちてしまうリスクを感じたら、

FIXロープを解除して、フォロワーをいち早く降ろせるような

システムを予め作っておくこともメンバーの力量により配慮したい。

(ムンターミュールノットなど)

      できることならビレイによる登攀方法がよいのだが、場所により

FIXもある。

(7)FIXロープトラバース・・・カウテール(セルフビレイランヤード)

2本使用

(8)A0(※手助け)・・・エーゼロ。アンカーに架けたスリング等をワン

ポイント手助けにして登ること。

(9)ゴボウ・・・フォロワーがロープを綱引きのようにして登ること。

たぐった分落ちてしまうので握力がなくなると危険なので注意。

10)藪漕ぎ・・・特に上流部や詰めに多い。笹藪は両手で掻き分けると

進みやすい。

11)ビレイ・・・沢登りのビレイとしては、ダイレクトビレイ(オートロック

型ビレイデバイス使用)、ハーフクローブヒッチ(ムンターヒッチ・

半マスト)、肩絡み、1/2システム+ガルダーヒッチ、ループビレイ

などがある。

      ボディビレイ+ワンターンは、テンションした場合、プーリー効果が

働き、脆弱な支点は破壊されるリスクがあるので使用すべきでない。

何より操作がしづらい。

フォロワーにテンションが架かる際に流芯や釜に入ってしまう恐れが

ある場合、ダイレクトビレイはやめるべきで、その状況により使い

分ける必要がある。

      使用するスリングはダイニーマ製240cmが何かと便利。

     私は他に400cmダイニーマスリングも携行する。きわどい高巻き等の

A0やお助け紐などに使用するが、必ず両末端はロックカラビナで連結

しておく。

12)フォロワーのロープワーク・・・ロープがクライミングに比べて細いこと、

濡れていることにより、テンションが架かった場合、解除することが

大変になることを考慮したい。

①フィギュアエイトノット ループ

    ②ダブルフィギュアエイトノット(①よりも比較的解除がしやすい)

    ③エイトノットラウンドターン(kamog開発)

    ④クローブヒッチ

 13)ビバーク・・・基本はタープ型。軽量化にもなり、夜間の増水時に

判断がしやすい。また何より隔絶されたテントより山の世界と同化できる。

寒い時期はツエルト使用だが。

荷はいつでも脱出できるようにまとめておく。

増水や鉄砲水に対応するため安全圏(尾根の上)に向かい、夜間誘導用

のロープを張っておく。

増水の危険性があるときは靴を履いたままにする。

焚き火を楽しめる。

飲み過ぎには注意・・・。

出発前の消火、燃え残り回収は当然。

 

4.沢登りのリスク

 

(1)落石

(2)浮石、ゴーロ帯の浮石

(3)転落、滑落

(4)直登や高巻きの選択ミス

(5)確保点の崩壊(特にラペリング時の木やブッシュ)

(6)ビレイ方法の選択ミス

(7)増水、鉄砲水

(8)SB崩壊

(9)低体温症、濡れ

10)動物(クマ、イノシシ、毒ヘビ、ヤマダニ、ヤマビル

(基本的に害はないが)

など