登山の基礎(準備編)

1.登山ができる環境作り

 (1)登ってみたいと思う山とコースを見つける

   ・山岳雑誌 
   ・webサイト(他の人の山行記録など)
   ・登山仲間からの情報

     ・実物を見て など

 (2)メンバーを見つける

   ・自分に合った山岳会に入会する
     webなどから見つけ例会等に参加する

     山岳会のメリット・・・教育体系を持っている(ないところもある)。
                ベテラン経験者によるアドバイスが受けられる。
                遭難したとき救助体制が迅速に取られる。
                       (体制がないところもある)
                メンバーの力量が把握できる。
                日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟、東京都岳連等
                に加盟している山岳会は様々なバックアップ体制が
                が施されていてよい。
     web上の集まりのディメリット・・・力量がわからないメンバーが多い。
                目的意識が各人バラバラで、いざというとき分裂。
                (=事実上の遭難)
                登山では絶対必要なリーダーの不在が多い。

   ・山岳ガイドや登山学校参加者との交流


2.登山計画を立てる

 (1)情報収集

   ・過去の山行記録、ガイド本や登山地図、山の先輩など人に聞く、現地(山小屋、
      役場や観光協会、地元の山岳会等)に聞く
   ・コースタイムは鵜呑みにしない。様々な要因で大きく変化する。
     人的要因・・・単独かパーティか?、ベテランかビギナーか?、ルート
            経験者がいるのか? など
     自然要因・・・季節、天候、崩壊、登山道の荒廃状況
     登山地図に記載されているコースタイムには休憩時間は含まれていない。
     自分(自分たち)の歩くスピードを相対的に知っておく。
      (例 昭文社登山地図のおよそ90%で歩ける など)
   ・一般登山道にもエリアによって状態に差がある。
     エアリアに記載されている赤実線でもエリアにより黒破線状態ということも。
   ・コース上の特徴を確認しておく
     (例 A小屋からB山までは森林帯 B山西側は崖など)
   ・「 危 」「 迷 」マークはなぜそうなのか調べておく。
   ・ガイド本に記載されている「初級者向き」「中級者向き」「上級者向き」
    などのレベルはエリア、季節、天候等により異なる。
   ・登山計画書届出ポスト、トイレ、山小屋、水場、管轄警察署を把握しておく。
   ・同行メンバーの力量や当該ルート経験の有無を把握しておく。
   ・同行メンバーの氏名、住所、年齢、血液型、連絡先、家族連絡先、
    山岳保険を必ずメンバー間で情報共有しておく。
    昨今個人情報を気にして提出を拒絶する方もいるが、人の管理していない
    自然の中の遊びを行うには必ず必要。命に関わってくることだから!
    できるだけ所属会や家族等に普段山へ行く格好の顔写真を渡しておく。
    捜索の際にこれが重要な「目撃情報」となる。
    遭難救助の際はこれらの情報の救助側の入手が生死を分けることもある。

 (2)日程、行程を決める

   ・ルート行程と合わせて余裕をもった日程を立てる。
    季節や天候によっては「予備日」も必要。
   ・自分たちのレベルに合った行程にする。
   ・要所ごとに到着時刻、出発時刻を設定する。
   ・もしものときに備えエスケープルート(いち早く安全圏に出られるルート)を。
   ・「早出早着」が原則―――様々なトラブルに対応できる余裕を取る。
     Ex)・山麓近くは森林帯が多く日没時間よりも1時間以上前には暗くなるので
         日没時間の少なくとも2時間前には安全圏に下山できるように計画。
        ・夏の午後は雷(熱雷または熱界雷)が発生することが多いので、
        天気予報に注意し、昼には山小屋等安全圏に到着できるよう計画する。
        昨今のゲリラ豪雨、ゲリラ豪雪は気圧配置や寒気の流入に注意する。
       ・道迷いのリカバリー、怪我や病気時の救助連絡対応などの時間的余裕。
          ・下山連絡先(山岳会では決まっている。無所属の方は家族や職場、友人
         に必ず)
を必ず決めておく。
         併せて下山連絡を何時までにするかも決めておく。

   ・下山連絡が指定時刻までない場合、下山連絡受理予定者は救助依頼準備をする。
    救助依頼は、①管轄警察署 ②所属山岳会代表者等 の順で。

 (3)「基本装備」と「リスクに対応するための装備」を決める

   ①基本装備―――・ザック ・季節やルートに適した靴や衣類 ・雨着(ゴア)
           ・防寒着 ・グローブ ・帽子 ・地形図とコンパス
           ・筆記具 ・保険証 ・ツエルト(ビバークテント)
           ・ビバークシート ・携帯及び乾電池式充電器
           ・ヘッドライト及び予備電池
           ・ファーストエイドキット(三角巾大、滅菌ガーゼ、消毒液、
            テーピングテープ、サムスプリント、冷感シップなど)
           ・薬品(風邪薬、鎮痛剤、胃腸薬、バンドエイドなど必要分)
           ・行動食、非常食、飲料

    ※山行中、スマホ・携帯のカメラで写真を撮影することは、いざという時に
     バッテリー
切れを起こしてしまう。
     また山中では消耗が激しいため、必ず電池式充電器の携行を。

   ②リスク装備――・小型ストーブ及びガスカートリッジ ・ロウソク ・鈴、笛
           ・虫除けスプレー(場合によりダニスプレー、唐辛子スプレー)
           ・補助ロープ30m ・テープスリング(150cm×2本)
           ・HMS型ロックカラビナ など

    ※私は補助ロープ、スリング、カラビナをたとえ日帰りハイキングでも携行する。
     ただ、その使い方を覚えておかないとただの重荷になるので学習しよう。

 (4)食料計画を決める(登山における食事)

・筋肉を動かすのは「炭水化物」と「脂肪」
    ・脂肪は体内にいくらでもあるが、炭水化物は食物からでしか補給できない。
      登山前夜は体内に炭水化物を蓄えておくこと。
      ごはん、めん類、じゃがいもなど
  ・登山中の食事(朝食・夕食)はやはり炭水化物をメインに。
      ・登山で消費するエネルギーは、概して
     「1時間当たり600700kcal」(数時間程度のハイクはやや低い)

     例えば8時間行動なら4,8005,600kcal消費する。
      消費量のすべてを補給することもないが、最低限3,000kcalは補給したい。

   以上を目安に朝食、行動食、夕食のプランを立ててみたい。

  ・行動食(休憩ごとに補給。最低でも2時間に一度。)
       やはり炭水化物が中心だが、パンよりも梅干し入り海苔巻きおむすびの
     方が水の消費量は少ないよう。
     またカリウムには痙攣防止効果もあると言われている。

  ・非常食(予定通りなら食べちゃだめ)
       非常食は「カロリー重視」で準備。
      非常食は「カロリーがあり」「日持ちして」「火を使わずに食べられる」
      加えて「甘い」(血糖値が上げられる)ことが条件
      チョコ(夏は溶けることも)、コンデンスミルク、蜂蜜、ビスケット、
      ゼリー、グミ、ドライフルーツ、カロリーメイトなど
     (上記のものはリフレッシュ行動食に入れてもよい)

  ・バテたときは各自の好物やカレーがよい
      本当にバテると水以外は受け付けなくなる。そんな時はその人の好物
        とかカレー粉があると食欲が多少出てきます。カレー粉ならば、手元
        にあるものを炒めるとか、おにぎりと炒めればドライカレーにもなり
        応用範囲が広くなる。

(5)水分摂取について

  ・水を飲まないとバテる
      人は運動すると筋肉が発した熱で体温が上昇する。
     42度を超えると死んでしまうので、発汗による放熱作用とそれを
     支える水分摂取が絶対必要。
      水分が不足する(脱水症状になる)と、
       熱中症・・・本来身体を冷やす汗が出なくなり、体温がどんどん
上昇し
             最悪死に至る。
       腎臓障害・・たくさん汗をかくことは常に乏尿の危険があり、腎臓障害
             を引き起こすこともある。一日900ml以上
の尿量を確保
             できるくらい水分摂取が必要。

       疲労・・・・体重の2-3%の脱水 → 運動能力低下と血液濃縮
            体重の4-5%の脱水 → 運動困難、熱疲労
            体重の7%の脱水   → 幻覚症状
            体重の10%の脱水  → 完全な熱射病、昏睡
      筋肉の痙攣・多量の発汗で水分補給が足りなくなると、筋肉中の電解質
      (ナトリウムやカリウム)のバランスが崩れ、
ふとももやふくらはぎなど
       に痙攣を起こす。
      塩分の含まれた食事や、摂水時にポカリなどが有効。
       血栓・・・・血液中の水分が失われ血液濃縮が進むと血液がドロドロに
            なり、固まりやすくなる。
            動脈硬化気味の人は脳や心臓の血管に血栓ができることも
            あり、最悪脳卒中や心筋梗塞を引き起こす。
      むくみ・・・脱水が進むとそれ以上水分を失わないために、尿を減少させ
            るホルモンが出る。この状態になると、血管内から血管外に
          しみ出る水分が増え皮膚の下にたまり、むくんでくる。
            むくみが出たなら水分不足も考えてみよう。

  ・必要な水分摂取量

      登山中に失われる水分は、平均的には1時間に体重1kgあたり約5g
       体重の2%以上失うと危ない
      最低限摂取する水分量は(体重60kgの人が8時間行動した場合)

       消費水分量・・・60(kg)×5(g)×8(時間)2,400ml
        体重の2%・・・60(kg)×0.02      =1,200ml

      従って、その差し引き1,200mlは最低限必要!

      ただしあくまで理想は失った分だけ補給する(2,400ml)こと。

・水分の取り方

      歩き出す前に飲む(250500ml
      こまめに飲む
      冷たい水の方が胃からの吸収効率がよい
      急いで水分補給するときはスポーツドリンクよりも冷たい水や茶
        の方が吸収効率はよい
       喉の渇きを感じる前に飲む
      真水系(冷たい茶、水)、塩分系(スポーツドリンク)、糖分系
      (ジュース類)の3種を交互に摂取するのがよい


        特に女性の場合「あまり飲むとトイレが近くなる・・・」と言って
        飲まないように努めている人がよく見受けられるが、汗、尿を出す
        ほど飲まないと「山では命に関わる」。
      ただし冷え性が多い女性は、夏でもテルモス等に温かい飲料を用意
      しておこう。

        また冬山は夏ほど暑くないし、発汗量も少ないからあまり飲まなくて
        よい、というのは違う。
      冬季は他の時季と比べ極端に大気が
「乾燥」していて外の空気を吸い、
      肺に達するまでに、喉や気道で
ものすごく「加湿」してあげなければ
      ならない。
        従って、冬季は夏以上に水分摂取は必要。

 (6)パーティ各員の役割を互選で決めておく

     リーダー(CL)・・・当該山行の最終行動判断を行う権限を持つ。
               メンバー全員の安全下山を最優先に行動する。

     サブリーダー(SL)・・・リーダーの補佐役。リーダーが有事の
               際にはリーダー代理を果たす。
               またリーダーとメンバーのパイプ的存在。

     記録係・・・行動時間、コース、写真、感想などを担当。
           後日これらを整理して報告する。

     食料担当・・共同食である夕食、朝食を担当。

     その他状況に応じ、気象係、起床係、会計係などもある。

 (7)有事の際の行動判断を予めメンバー間で意思統一する

     「○○になったときは**しよう」
        これができていないと人的遭難を起こす。

 ★以上を「登山計画書」に盛り込みメンバーに配布し相互チェックをする。

   「登山計画書」 = メンバー皆で練り上げたKYチェックシート

   入山口にある「登山カード」は単に個人情報と予定ルートを記載したもの
   であり、KYチェックには至らない。それでも出さないよりはマシだが。

 ★完成した登山計画書は、事前に所属会や家族等に提出し、また有事の際に
  救助のスピード(命を助けるスピード)を迅速にするため、入山口の
  登山計画書届出ポストに投函したり、管轄警察署に提出しておく。

  たとえ簡単なハイキングでも例外ではない。高尾山や房総の低山で多くの
  遭難は起きている。

以上のことを実践し、またもしもの時に配慮した捜索救助費用給付付きの山岳保険
に加入することが「登山の自己責任」というものである。

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